問題は川勝前知事ではない…静岡県知事が交代しても「2027年リニア開通」は無理筋と言える3つの理由【篁五郎】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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問題は川勝前知事ではない…静岡県知事が交代しても「2027年リニア開通」は無理筋と言える3つの理由【篁五郎】

写真:著者撮影

 

◾️③「2027年開通」最大の障壁はシールドマシンの性能

 

 リニア開通で駅周辺が再開発されている神奈川や東京でも問題が起きていた。今年4月、品川駅と相模原市の「神奈川県駅」(仮称)を結ぶ第1首都圏トンネル(約37キロ)のうち、川崎市麻生区の東百合丘工区(約4.2キロ)の一部が取材陣に公開された地域で開発も順調だが、工事の前段階である調査採掘で遅れが出ていたのだ。

 調査採掘は、東京都調布市の東京外郭環状道路(外環道)トンネル工事での陥没や空洞の発生を受けて行われている。外環道と同様に地下40メートル以下の大深度を掘る同トンネルの工事の影響を調べて陥没や空洞が発生しないかの調査である。

しかし北品川工区の調査は掘削機の不調で2度にわたり中断し、小野路工区(東京都町田市など)では機器交換で開始が延期された。愛知県内では調査掘進の準備中に掘削機が破損するなど、他の工事での不調も相次いでいる。

 リニア離発着駅の品川では、名古屋方面へ向かう北品川工区で、調査掘進が今年4月に再開された。シールドマシン(掘削機)の損傷で、掘削予定の300メートルのうち124メートルを掘って中断していた。今年夏ごろの完了を見込んでいるという。

 そこで気になるのは、地下トンネルを掘る際に広く用いられるシールドマシンの性能である。シールドマシンは、筒状の先端のカッターが回転しながら掘削し、同時に掘った部分を押さえつけ、後方でセグメントと呼ばれる輪切りの筒状の部材を構築してトンネルとして仕上げる機械だ。一度に複数の役割を自動的に行い、掘削後はトンネルがほぼでき上がっているため地質に問題がなければ工期は早く進むという。

 このシールドマシンは1日平均10メートルのペースで掘り進めているという。2024年の年頭から1日平均10メートル掘ることができるシールドマシンを用いて、第一首都圏トンネルの工事が本格的に開始されると、トンネルの貫通は20341月。その後、線路を敷いて営業可能な状態に整えるには少なくとも1年が必要となるため開通は2035年が現実的だ。しかも1日平均10メートルのペースで掘り進めたのは、土が柔らかい首都高速中央環状線のトンネルである。

 岐阜・愛知の両県をまたぐ形で設けられる「第一中京圏トンネル」だとペースはもっと遅くなるだろう。ここでは地層の硬さがネックになっている。

 第一中京圏トンネル坂下西工区の坂下非常口(愛知県春日井市)から21年度中にシールドマシンを用いて調査掘進を行う予定だったが、シールドマシン先端部のカッター部分に損傷が見つかり、中止となった。今年4月にようやく掘進が再開したという。 

 ここから見えてくるのは、元々2027年に品川-名古屋間の開通は無理があったということだ。JR東海は、ゴールありきで周辺エリアの環境アセスメントの調査も甘く、シールドマシンの負担についても検証が不足していた。しかも残土処理もおざなりだったと言わざるを得ない。リニアは国策でもあるのだから、政府が積極的に開通エリアに対して調査をすべきであった。入音に事前準備をしてから計画を立てれば、こうした問題が起きる可能性は低かったであろう。

  大手マスメディアが、リニア問題を報じてこなかったのも問題である。これまで挙げた点を地元メディア以外が取り上げていれば、リニア計画の見直しも起きた可能性があったかもしれない。しかし、川勝前知事が指摘した水問題のみ取り上げ、前知事を反リニアの急先鋒のような扱いをしてきた。

 しかしながら川勝前知事以外にも反対をしてきた人々がいたのだ。彼らはリニアによって、自分の生活が侵害される恐れがある。しかも生態系を破壊するのであれば、早く取り上げることで絶滅危惧種に影響が少ない計画に変更できたかもしれない。しかし大手マスメディアは、大広告主であるJR東海に物申すことができないのだろう。これが現代日本のジャーナリズムである。もはや大手マスメディアはグルメとインバウンドと芸能を取り上げるだけ。実に嘆かわしい限りである。

 

文:篁五郎

 

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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